「取引を終えてから、EARの規制対象品目だったかもしれないと気づいた」——輸出管理担当者にとって、これほど落ち着かない状況はありません。黙っておくべきか、BISに申告すべきか。ここでは、BISが定めるVSD(自主的開示)制度の考え方と、実際の適用事例を整理します。
米国輸出管理規則(EAR)とは?日本企業が知っておくべき基礎知識
VSDとは何か
VSD(Voluntary Self-Disclosure)は、EAR違反の可能性に気づいた企業・個人が、BISに自主的にその事実を開示する制度です。
- 2023年4月18日、BIS次官補マシュー・アクセルロッド氏名義で、VSDと他者に関する開示についての政策方針を明確化する覚書が公表された
- BISは以前から「問題解決ガイドライン」で、適時・包括的・全面的な協力を行ったVSDに対し民事罰を大幅に軽減し、悪質でなければ全面的に猶予する場合があるとしてきた
- 2023年の覚書は、この既存方針をさらに明確化したもの(長島・大野・常松法律事務所の解説記事による)
軽減要素としての「特別な協力」
- BISが審査時に考慮する軽減要素の一つに「OEE(輸出執行局)への特別な協力」がある
- 過去にBISへ情報提供した実績は、それが今回の違反と無関係な行為に対するものであっても、将来の軽減要素として考慮される
- つまりVSDは単発の開示判断ではなく、日頃の協力実績が将来のリスク軽減につながる設計になっている
実際の適用事例
同じ2023年4月に公表された2つの事案を比較します。
| 事案 | 内容 | 結果 |
|---|---|---|
| マイクロソフト社(2023年4月6日) | EAR違反、および対キューバ・イラン・シリア・ロシア制裁への違反 | 自主開示とBIS・OFACへの捜査協力、改善措置により罰則が軽減 |
| 直接製品規制違反(2023年4月19日) | EARの直接製品規制違反 | 3億ドルの民事制裁金(自主開示の有無は確認できず、詳細不明) |
自主開示と協力の有無が結果に差を生んでいる可能性を示す事例ですが、後者は詳細が確認できないため断定はできません。
VSDのメリット・デメリット
| 観点 | 開示する場合 | 開示しない場合 |
|---|---|---|
| 罰則 | 軽減される可能性がある(悪質でなければ全面的な猶予もありうる) | 発覚した場合、軽減要素がなく罰則が重くなりやすい |
| 対応コスト | 開示・捜査協力に社内リソースが必要 | 短期的なコストは発生しない |
| 将来リスク | 協力実績が将来の軽減要素になりうる | 発覚時に前歴として扱われるリスクが残る |
まとめ
- VSDはEAR違反の可能性を自主的にBISへ開示する制度で、2023年の覚書で方針が明確化されている
- 適時・包括的・全面的な協力を行った場合、民事罰の大幅な軽減や猶予の対象になりうる
- BISへの協力実績は、将来別の違反が生じた際の軽減要素としても考慮される
- マイクロソフト社の和解事案は、自主開示と捜査協力により罰則が軽減された実例である
(外部リンク:BIS Licensing)
(外部リンク:CISTEC 米国再輸出規制入門)
関連書籍
より体系的にEARを学びたい方は、CISTEC発行の実務書もあります。

米国輸出管理法と再輸出規制実務
本記事の内容は2026年7月時点の情報に基づきます。実際の判断は必ず最新の法令およびBIS・経済産業省の公表情報をご確認ください。


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